Sunset citrouille
■読みきり■
確かめたかった夏の話
■悪魔シリーズ■
-炎-(表示中)
-炎-
書いた日…2010年8月4日
初公開…2010年8月4日(pixiv)
修正履歴…当サイト掲載後はなし
本編文字数…1586字
本作は、フィクション作品です。
地名や人名は全て架空のものであり、
実在する地名や人名と同一であっても全く関係はありません。
 荒廃しきった街の開けたところで彼は敵と対峙した。
かつては賑わっていたであろう街の大通りには瓦礫と死体しか転がっていない。
全ては今彼の目の前にいる化け物の仕業なのだ。

 化け物は明るいところで見れば実に滑稽な姿をしている。
黒い骨標本がボロ布をまとって浮かんでいるだけなのだ。
ただし今の化け物がいるところは火山灰が厚く空を覆い、時が全てを風化させたあとの、
暗く閉ざされた街の中なのだ。

 彼にこの街へ行く道を聞かれた者は皆口を揃えて言った。
「あの街にはもう何もない、行く者は皆帰ってこない」
彼は全て承知していて道を訊いていた。
誰も一人の若者を帰ってこないと分かっている行き先を教えるものはなかった。
ついに一人の旅人が彼の真剣な眼差しに応えてしまい、
彼は死の街に来ることができたのであった。

 近年街の付近で火山活動が活発化しており、
街は溶岩に埋もれてしまうとされていた。
街が死んだ原因を究明する者などもういなかったし、
物好きが街へ入って帰ってこなくなったということが度々あったので、
火山が噴火し溶岩に街が埋もれてちょうど良いと、街を知る者は皆思っていた。

そうして暗い過去は消えて数十年もすれば新しい街ができるのだろう…

 彼にとっては街の過去も未来も全く関係のないことだった。
灰が雪のように彼の肩に落ちた。

 化け物の口が音もなく大きく開かれる。
不気味な甲高い音が大地を震わせた。化け物あるはずもない体内から音は響き渡っていた。

「効かないぜ。もっと意味のある歌を唄ったらどうだ」
彼は化け物を睨み付けながら嘲笑気味に言い放った。

 化け物は両手を挙げて先ほどとは違う金切り声を上げた。
灰と砂埃の地面から黒い霧のようなものが立ち上ってくる。
彼は少し身を引いて呟いた。

「少しはやれるみたいだな。早めにけりをつけるぞ」
『この程度で「やれる」とは笑止。我が敵ではない』

 別な黒い影が彼の背後に現れ、目の前の化け物を嘲笑った。
化け物はその姿を見て声を止めた。

 黒い霧は形を成していて鋭いくちばしを持つ鳥になった。
鳥達は一斉に彼を目指して飛行した。

『愚かな。我が姿を見ても退かぬとは愚行としか言い様がないわ』

影が右手を上げると鳥達は音もなく霧散した。
それとほぼ同時に彼は化け物めがけて駆け出す。

 化け物がかざした両手にどこからともなく湧き出した霧を集めて鎌を握った。

「遅い」

彼が振り上げた右手が緑の炎をまとって、そのまま化け物に振り下ろされた。
化け物は鎌も布も骨も全てが真っ二つになり、彼の炎に触れた中央から徐々に融解した。

 彼が着地したときその場には黒い雨が降った。
そしてその雨は彼を濡らすことはなく、すぐにその場から、存在そのものが消え失せた。

『しかし死の雨だけは何度見ても慣れぬな』
「自分が死ぬときも同じだからだろう?」

彼は影へ振り返って言った。

「いつかの、その時を恐れているんだろう…」
『……』
「早くここを出よう。俺も火砕流に巻き込まれたくはないしな」

 影は何か言いかけて黙って姿を消した。
彼はいつ来るかもしれない溶岩よりも、今まさに降り積もる火山灰の方が嫌に違いないと、
影はそう思ったのだった。

 彼が昔亡くした大切な人は降り積もる雪の中で死に絶えた。
この灰はそのときの状況を思い出させるのに充分だった。


『あの餓鬼にまた先回りされたわ』
「…そうか。『ヤツ』に関係がないのならどちらが先でも構わないが」
『あなたの追うものに直接関係はないわ。ただ…』
「あいつが目をつけられたら確かに厄介だというのも分かるが、そう神経質になるまでもないだろう」
『私はあなたがあいつらを切り札として伏せておくものだと思っていたから』
「目立ったことはしてほしくないと? まあ確かにそれもそうだが」
『…何か私に隠し事でも?』
「いや、お前に隠し事などないさ。ただわかるんだよ」
『?』
「力を手に入れたら復讐したくなる気持ちが」
あとがき(2016年7月10日)
 小説をサイトに載せようと思って、過去に書いてた小説を引っ張り出してきました。
すごく中二病でいいですね。
 寝てなくて、眠い状態で書いた記憶があります。
 もともと最後に会話しているふたりの小説を書いていて、やっぱり例に漏れず形にするよりも先に頭で完結・満足してしまい小説は完成していません。
 そのふたりの弟子の話がこの「炎」になります。毒をもって毒を制す悪魔を使役して悪魔を倒す人たちのお話です。
 自分は感情に振り回されることが多いのでこの作品も感情が大きく登場人物の行動や全体のストーリーに作用しています。
 タイトルの「炎」は愛する人を奪われ、その復讐に燃える男たちの情熱を戦いの武器として具現化した結果ですが、炎は形が安定せず制御も難しいものだと思います。その武器のもろさが上手く描ければいいですね…。
 ちなみに絵は全然関係ないものです。
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